永木三月のテイスティングログ: 国産ワイン紀行! 6種テイスティングの会(「おいしいもの味覚鑑賞会」第29回)

2016年4月4日月曜日

国産ワイン紀行! 6種テイスティングの会(「おいしいもの味覚鑑賞会」第29回)

6種の国産ワインをテイスティング!  


2/7(日)夜、シェアハウス『浅草橋ブレッドボード』にて、食べ比べをテーマにした会「おいしいもの味覚鑑賞会」を開催しました。    

今回で29回目の開催になります。ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。テイスティング専門家の永木三月です。    

今回のテーマは『国産ワイン』。近年成長が著しく、海外でも高い評価を受けるなど、今大いに注目を浴びているジャンルです。  

今回の会では、日本のワインのレベルはもちろんのこと、海外では作れない、土地に根付いた日本ならではのワインを味わうということを念頭にワインを揃えました。産地も、山梨、長野、島根、京都、大阪と多岐に渡っています。   

〈目次〉(★=格別美味、◯=次点。)      

 1.山梨『まるき葡萄酒』2015巨峰にごり 
○2.京都『丹波ワイン』播磨産シャルドネ2014 
 3.島根『奥出雲ワイナリー』シャルドネ2013 
 4.長野『井筒ワイン』マスカットベリーA 2013 
★5.長野『Rue de vin』ドゥーローブヴィオレット2014 
○6.大阪『カタシモワイナリー』candy dolce 朱葡萄  




レビュー   


1.山梨『まるき葡萄酒』2015巨峰にごり(1458円)  


まずは現存する日本最古(1891年設立)の醸造所『まるき葡萄酒』の巨峰にごり。
こちらは、明治初期に国の命を受けてワイン醸造のノウハウ習得のために渡仏した土屋龍憲が、帰国後その知識を活かして設立したワイナリーです。国内で様々な製法のワインの先駆けとなるなど、時代の先端を担ってきた経歴を持ち、今なお活躍を続ける老舗ワイナリーです。  

今回頂いたのは「巨峰にごり」という、甘口のロゼワイン。 口当たりはあまりワインらしくなく、巨峰の味が前面に出たジュースのようです。やや青みもあり、しっかりとした甘みがあります。味には果皮の渋みがしっかり感じられ、ワインらしさが顔を覗かせます。 

酸味がなく、やや食中酒としては使いづらいところがありますが、重ための前菜の前で頂く食前酒としては有りだという意見がありました。 デイリーワインということもあって、味わいは丸っこく素朴なものです。 


2.京都『丹波ワイン』播磨産シャルドネ2014(1500円)  




2本目は、1979年創業の京都『丹波ワイン』のシャルドネ。 
自社農園で栽培したぶどうを使ってワインを作っており、和食とのペアリングを重視するなど、日本の土地や文化にあったワイン作りをコンセプトとしています。  

頂いたのは「播磨産シャルドネ 2014」。色合いはやや青みがかったレモンイエロー、柑橘系のフレッシュな酸味が特徴的です。線は細いですが、きちんと芯が通っていて味わいの綺麗なワインです。  

和食では、魚の煮付け、おでんなど、こっくりとしたコクのある料理が相性の良いであろう料理としてあがりました。今回頂いた中ではシャープに洗練されていたワインの一つです。

和食に合うワインの構想、非常に多種のぶどうを栽培・研究しているなど、クラシカルな意味でも、日本にワインを持ち込むという意味でも、意欲的なワイナリーです。
 

3.島根『奥出雲ワイナリー』シャルドネ2013(3240円)  




3本目は、島根『奥出雲ワイナリー』の樽熟成させたシャルドネ。 
牛乳で有名な木次乳業が出資して1990年に設立されたワイナリーです。初めは山葡萄系のぶどうを使ったワインのみでしたが、後にシャルドネを使ったワインにも着手し、それが高く評価された事で一躍有名になった経歴を持ちます。  

今回頂いたのは樽で熟成させた「シャルドネ2013」
香りにはバニラのような樽香があり、ややチーズのような風味も感じます。 味わいは、パルミジャーノレッジャーノのような苦味を伴うコクが特徴的です。  

全体としては、樽由来の甘く綺麗な香りはついていますが、味わいも加味すると少し薬っぽさが目立ち、バランスを欠きます。魅力はあるだけにもったいなさを感じてしまう1本でした。  


4.長野『井筒ワイン』マスカットベリーA 2013(1407円)  


4本目は、長野『井筒ワイン』のマスカットベリーA。 醸造所は1933年の創業で、地元の国産葡萄から作る純国産ワインの作り手として有名です。塩尻のワイナリー巡りで訪れたことがあるのですが、コンコード、ナイアガラ、巨峰など、風土にあったぶどうで作ったワインを試飲させていただき、果実味あふれるフレッシュな味わいが印象に残っています。  

今回頂いたワインの原料であるマスカットベリーAは、日本で誕生した数少ないワイン用ぶどう品種の一つです。ワインの味わいはややスパイシーで、重量感はややライト。まとまっていますが、味全体の印象はかなり小振りで素朴でした。  


5.長野『Rue de vin』ドゥーローブヴィオレット2014(5000円)  


5本目は、長野『Rue de vin』ドゥーローブヴィオレット2014。 
軽井沢と長野の中間辺りに位置する東御市にワイナリーを構えています。2010年創業とかなり若いワイナリーです。創業者の方はワインメーカー出身で、それまでは林檎農園だった土地に目をつけ、ワイン作りを始めたのだそうです。 

今回頂いたのは、メルローとカベルネソーヴィニヨンをブレンドして作った赤ワイン。年ごとにブレンドは異なり、今回の一本は1:1の配合です。  

ややスモーキーで、フルーティさやタンニン感など、どこか一つの主張が際立つという事はありません。単品での個性をそれほど感じないのですが、ここまででは最も繊細で、クオリティも高いです。味の頭から尾まで一本の芯が通っていて、肌理の細かさも均一です。味わいが綺麗にデザインされているのが感じられます。  

ブルーチーズ、ミートソースのパスタなど、重めのつまみの味を受け止めるのが上手く、マリアージュがとても楽しみやすいワインです。   


6.大阪『カタシモワイナリー』Candy Dolce 朱葡萄(2500円)  


最後はデザートワインとして『カタシモワイナリー』Candy Dolce 朱葡萄
ポルトガルのマデイラワイン、イタリアのマルサラワインなどと同じく、発酵途中にアルコールを加える事で発酵を止める製法を取った、いわゆる「酒精強化ワイン」で、こちらのワインはグラッパを加えているそうです。  

バランスは良く深みもそこそこですが、張りつめるような緊張感はなく、やや味に遊びがあります。レーズンのような濃厚な甘さが特徴的。
  
こちらのワイナリーの面白いところは、今回取り扱った他のワイナリーとは違った戦略性が見えるところです。地元の名物たこ焼きに合うスパークリングワイン「たこシャン」などの、一風変わった商品ラインナップ、パッケージのデザインなど、遊び心に溢れた製品作りが様々な面から見て取れる、面白いワイナリーです。   


最後に   


『まるき葡萄酒』の項でも書いたように、国産ワインの歴史は明治にまで遡れます。

西洋文化が受容されて行く中で、政府と民間双方がワインの製造を手がけて行く訳ですが、土地や気候など、自然の条件に大きく左右されるワイン作りは思ったようにはかどらず、質、保存含め、安定した生産体制を作り上げるだけでもかなり難航したようです。  

当時ワインが日本にあまり根付かなかったのには、自然条件の他に、文化的な要因もありました。今も販売している「赤玉ポートワイン」など、輸入ワインに砂糖や香辛料で味付けをした甘味ブドウ酒が、明治初期における日本のワインの主流だったことからもわかるように、いわゆる純粋な葡萄酒は、日本人の口には合わなかったようです。  

現在でも、ワインが日本人の食文化に馴染んでいるとは言い難いものがあります。バブル期や、90年代のワンコインワインの流行など、昭和から現在にかけて、小さなブームは幾度も訪れていて、ここ数年は消費量も伸びているようですが、未だに特別な機会がないとワインを飲まないという人がほとんどではないでしょうか。
ヨーロッパの主要な国々と比べた場合はもちろん、ワイン新興国と呼ばれるチリやアメリカなどと比べても、その消費量は極めて少ないようです。  

プロダクトのレベルだけに焦点をしぼれば、国産ワインでは、ここ10年ほどできちんとした質のワインが出てきたという見方が一般的なようです。

元々日本は醸造用のぶどう栽培に向かない風土で、食用のぶどうをワイン醸造に転用したり、海外から輸入したワインをブレンドして風味を補ったりと、次善の策を講じざるを得なかったという背景があります。

醸造所が畑を持つ事にもかつては法的な制約があり、質のよい醸造用ぶどうを入手することに対するハードルが高かったようです。  
近年では農地法に関する法改正もあり、ぶどうの生産からワインの醸造まで、醸造側がプロセスを一貫して管理しやすい体制ができてきています。  

今回頂いた中では、京都『丹波ワイン』、長野『Rue de Vin』、大阪『カタシモワイナリー』のワインが印象に残りました。
醸造所毎に異なるキャラクターが感じられ、国産ワインにも様々なバリエーションと質が伴ってきているのは、全体としては良い兆しではないでしょうか。  

果実味や香り高さなどは、ワイン作りの長い歴史を持つ国々のものに比べれば物足りないという見方も当然ありますが、醸造家の熱意がワインの質に反映するだけの地盤がようやく整ってきたというのが、国産ワインの現状なのでしょう。

一過性のブームに終わらずに受容が拡大すれば、酒質もさらに向上していくのではないでしょうか。日本なりのワイン文化、味、飲み方を形作るために、今後も様々なアプローチがなされて行ってほしいと思います。


次回の予定 

「おいしいもの味覚鑑賞会」は月1回を目安に開催しています。    
これを見て興味をもった方、今回は都合が合わなかった方、普段から食べるのが好きな方、いつもはコンビニで済ませてしまう方、どんな方でも大歓迎です。おいしいものを食べて、一緒に語らってみませんか? 
次回の開催は4月末を予定。テーマは決まり次第告知いたします。  

このサイトでは「テイスティング」を軸にレシピやお店などの比較をテーマにした記事をお届けしています。 そちらもよろしければ見ていってください。それではまた!

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