永木三月のテイスティングログ: 南インドの定食「ミールス」食べ比べ 〜 都内の有名店3店をテイスティング!

2015年4月11日土曜日

南インドの定食「ミールス」食べ比べ 〜 都内の有名店3店をテイスティング!

はじめに

インド料理と聞くと、どんな料理を思い浮かべるでしょうか。
日本では、もちもちのナンとこってりしたバターチキン、少しおなかに残る味わい、こうした印象がインド料理のイメージだと思います。

しかしこの記事で紹介するお店は、ナンもバターチキンもメニューに載ってないお店ばかり。それは、ナンやバターチキンが北インドの文化であるのに対して、今回とりあげる「ミールス」が南インドの文化だからです。

登場するのは、薄焼きのあげせんべい「パパド」や揚げパンの「プーリー」、そのほか「マドラス」「ケララ」などの土地の名前がつけられた個性豊かなカレーです。


南インド料理と言っても、とっつきにくいものではありません。「ミールス」はいわば庶民の食べる定食のような存在なのです。
日本食でたとえるなら、ごはんにみそ汁、つけもの、酢のものが付いた和定食という所でしょう。栄養的にも野菜や豆などが豊富で、とてもバランスの良い食事になっているのも、魅力の1つです。

この記事では都内にある南インド料理の有名店3店の「ミールス」をテイスティング!
初心者にお勧めのサラッと食べられるミールスから、本場仕込みのディープなものまで、幅ひろくご紹介します。気になったミールスにぜひチャレンジしてみてください!


1.エキゾチックな店構え&サラッとしたミールス、桜新町『砂の岬』



まずは桜新町『砂の岬』。店主さんはとてもインド好きの方で、毎年インド旅行に行かれる時期は、店を長期休業しているそうです。
店の演出は小物まで含め、かなり凝っています。本なども、現地の言葉で書かれたものが置かれていて、調度品からもエキゾチックな雰囲気が感じられます。
 
ミールスはスタンダードに、アチャール(ネパール式スパイス漬け)や、ライタ(ヨーグルトのサラダ)、ラッサム(黒こしょう風味の豆スープ)、ボリヤル(野菜の炒め物)などで構成されています。
ラッサムは日本のみそ汁のような存在で、ミールスには欠かせない一品。メインのカレーは4種類ほどから選べたので、その日はマドラスチキンカレーを注文しました。

左から、マドラスチキンカレー、ラッサム、ボリヤル、ライタ、アチャール、ライスの手前がパパド

印象に残っているのは、一番スパイスが利いていたマドラスチキン。マドラスはタミル地方の地名で、現在はチェンナイと呼ばれています。

全体の印象は、かなりさっぱりとしていて軽め。一品一品がきれいにまとめられた雑味のない味わいで、量もやや控えめです。ヘビーなスパイス感がないので、さらっと食べたい方にお勧めのお店。営業はお昼だけなので、町を散策する前の腹ごしらえなどに良いかもしれません。


2.華やかなインド食堂、京橋『ダバ・インディア』

カレーは左から、チキンカレー、エッグキーマココナッツカレー、バタークリームベースの豆カレー、サンバル、ラッサム。手前が揚げパンのプーリー

2店目は京橋『ダバ・インディア』。食べログでは、日本のカレーカテゴリ3位(2015年4月現在)で、非常に人気のあるお店です。

近いエリアにある『グルガオン』『カイバル』はそれぞれ、北インド料理、タンドール料理(タンドール=ナンなどを焼く窯のこと)を専門にした系列店で、そちらも美味しいお店です。

「ダバ」(インドの言葉で食堂のこと)という言葉通り、非常に賑やかな雰囲気で、店員さんの応対も、とてもはつらつとしています。

こちらのミールスは、『砂の岬』にはなかった揚げパン、プーリーが付いています。おかずが5皿なのは同じですが、サラダや漬け物はなく全てカレー。ボリュームもかなりあります。


一番美味しかったのは、緑色のカレー。卵と鶏ひき肉、ミントのペーストとココナッツミルクを合わせたカレーで、マイルドなまとまりのある一品です。

面白いのは黄色のカレーで、こちらはバタークリームを使った北インド色の強い味わい。本場の南インド料理を貫くというコンセプトは弱いのか、全般的にスパイシーな味ではありますが、伝統的なものには感じません。


雰囲気、味共にとても華やかなので、賑やかにおいしい食事をしたい時にお勧めのお店です。


3.本場インドのヘビーな味わい、東銀座『ダルマサーガラ』


最後は東銀座の『ダルマサーガラ』。店名はインドの言葉で「仏法の大海」という意味。銀座の中心地からはやや離れたところにありますが、こちらもかなりの人気店です。
こちらのミールスは、ダバインディアと同じく、プーリー、パパドがついています。ライスはジャスミンライス。

器物は左から、ライタ、ボリヤル、ラッサム、チキンカレー。手前の緑はグリーンチャツネ(香草ソース)。ライスの隣は鶏胸肉のスパイス炒め。

一番印象に残っているのは、奥のラッサム。他2店のラッサムは、定食の中でさらっとした味わいを担当している印象があったのですが、こちらのラッサムはかなりヘビー。
口当たりはさらっとしていますが、舌の上にわずかに感じるとろみに酸味と辛味が凝縮されていて、ずっしりとしたコクのある一品。マスタードや唐辛子、黒こしょうの辛みがビッシリと感じられます。

料理を作っているシェフが南インドの暑い地域の方だそうで、単純な辛さという意味でも相当なものです。全体的な味わいはかなりディープで、本場の味へのこだわりを感じます。本格的なインド料理を食べてみたい方にうってつけのお店です。


終わりに:ミールステイスティングメモ



いかがでしたでしょうか。知らない料理名も多く、南インド料理はむずかしいと思った方も多いかもしれません。実は日本だけではなく欧米諸国でも似たような状況が多いそうです。

それには理由があります。
その事情は、インド料理研究家である渡辺玲さんの『誰も知らないインド料理』という本に詳しく語られています。簡単に言うとその原因は、インドレストランの発祥がパンジャービ地方とムガル地方の料理をベースにしているから、というものです。

もともとインドでは宗教的な理由から、お店で食事をする自体あまりなかったようで、レストランなどが出来始めたのは1947年の独立以後のことだそうです。
当時イギリス領だったインド帝国は、インド連邦とパキスタンに分かれて独立しましたが、その際に、両国の境界があったのがパンジャービと言われる地方でした。

そこに暮らしていた人々の一部は、宗教的な対立によって土地を追われることになります。その一部が身を寄せたのが、インドの都市デリーであり、その地で生計を立てるためにレストランを営むようになったのが、インドレストランの発祥だそうです。


その結果インドレストランはパンジャービ地方と、デリーを含むムガル地方のカレーをベースに出来上がりました。


インド料理の作り手は、現地のホテルレストランなどから招かれることが多いので、世界のインドカレーもそうした料理が主になります。本来は地方色豊かなはずの「インドカレー」が似通っているのはこういう事情が関係しています。

こうした料理と反対に、今回紹介したミールスは庶民の日常食。外食産業として営まれることが少なかったインドの家庭料理がベースになっています。日本人が営んでいる南インド料理のお店でも、現地の家庭で料理を教えてもらい、それをベースに作った料理を提供しているという話をときおり耳にします。

ミールスなどの南インド料理は、初めて食べる際はかなりエキゾチックに感じますが、どこか素朴な味わいがあって、とても魅力的です。慣れてしまえば、元が定食ですので案外はまる人も多いのではないかと思います。

気になるミールスがあれば、ぜひ一度体験してみるのをお勧めします!

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